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岡山地方裁判所 平成6年(ワ)212号 判決

原告

大森弘勝

ほか一名

被告

西野直樹

ほか一名

主文

一  被告らは、原告大森弘勝に対し、各自金七三五万三九四二円及びこれに対する平成五年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告大森通子に対し、各自金三一〇万八八〇七円及びこれに対する平成五年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、

その余は被告らの負担とする。

五  この判決は、第一及び第二項につき、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告大森弘勝に対し、各自金一五三七万〇八〇四円及びこれに対する平成五年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告大森通子に対し、各自金三三六八万五一三六円及びこれに対する平成五年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  第一及び第二項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件交通事故(本件事故)の発生

(一) 日時 平成五年六月二二日午後一時五〇分ころ

(二) 場所 岡山市辰巳三七番地の一〇一先市道上

(三) 加害車 普通貨物自動車(岡山四六ち一四一一、被告西野車)

(四) 加害車運転者 被告西野直樹(被告西野)

(五) 被害車 原動機付自転車(岡山市う七七九八五、聖子車)

(六) 被害者 大森聖子(聖子)

(七) 事故態様 出合頭衝突

(八) 被害状況 聖子は、本件事故により、脳幹損傷傷害を負い、岡山赤十字病院に入院治療したが、脳幹損傷のため、平成五年七月六日午前四時一一分、同病院において死亡した。

2  責任原因

(一) 被告西野は、被告西野車を前方不注視で運転したことにより、本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条により、聖子に生じた損害を賠償する義務がある。

(二) 被告株式会社西文明堂(被告会社)は、被告西野車の保有者で、かつ被告西野の使用者であるから、自賠法三条、民法七一五条により、聖子に生じた損害を賠償する義務がある。

3  損害

(一) 死亡に伴う逸失利益 四八二八万六四六九円

聖子は、本件事故当時、株式会社サニツクスに勤務し、平成五年一月一日から六月末日までの間、一二一万三八六七円の収入を得ており、これを年収に換算すると二四二万七七三四円、これに平成四年度実績の賞与五八万一五〇〇円を加えると、三〇〇万九二三四円となる。そして、聖子は、本件事故当時二三歳であり、生活費控除割合を三割、就労可能年数を六七歳までの四四年間、これに対応する新ホフマン係数二二・九二三を用いると、その逸失利益は四八二八万六四六九円となる。

三〇〇万九二三四円×(一-〇・三)×二二・九二三=四八二八万六四六九円

(二) 原告両名の死亡慰謝料 二四〇〇万円(各自一二〇〇万円ずつ)

(三) 葬儀費用 三三七万〇八〇四円(原告大森弘勝(原告弘勝)が支出)

葬儀料 八一万四二二九円

火葬場使用料 六〇〇〇円

金光教岡東教会への支払い 一六万円

葬儀に際しての弁当代 一四万四二〇〇円

神壇代 四一万二〇〇〇円

墓地永代使用料等 六三万四三七五円

石碑代 一二〇万円

(四) 聖子の傷害慰謝料 二〇万円

(五) 聖子の休業損害 一二万三六六七円(休業一五日分)

(六) 原告大森通子(原告通子)の付添看護料 七万五〇〇〇円 (一日五〇〇〇円として一五日分)

(七) 損害の填補(自認分) 原告通子につき三〇〇〇万円(自賠責保険)

(八) 弁護士費用 三〇〇万円(原告通子の損害として請求)

(九) 損害合計 四九〇五万五九四〇円

(前記(一)ないし(六)及び(八)の合計金額から(七)を控除した金額)

4  相続と遺産分割

聖子の相続人は、両親である原告両名であるところ、原告らは、平成六年三月二日、前記3の聖子の損害賠償請求権を原告通子が取得するとの遺産分割協議をなした。

5  まとめ

よつて、原告らは、前記2の責任原因に基づき、被告ら各自に対し、原告弘勝につき前記3(二)と(三)の合計一五三七万〇八〇四円、原告通子につきその余の三三六八万五一三六円、及び右各金員に対する本件事故の日である平成五年六月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3の事実中、(七)の事実は認め、その余の事実は不知ないし争う。

3  同4の事実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、聖子が、一時停止標識のある道路から、一時停止をせずに漫然と走行したために発生したものであり、少なくとも同人に七割の過失がある。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

聖子は、一時停止をしており、同人の過失は二割である。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実(本件事故の発生)は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2の事実(責任原因)は、当事者間に争いがない。

右事実によると、被告西野は、民法七〇九条に基づき、また、被告会社は、自賠法三条に基づき、連帯して、本件事故により聖子ないしその両親たる原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

三  請求原因3(損害)について

1  死亡に伴う逸失利益(認容額四八二八万六四六九円)

証拠(甲八の一ないし三、原告弘勝本人)によれば、聖子は、本件事故当時、二三歳の健康な女子であり、株式会社サニツクスに勤務し、平成五年一月一日から六月末日までの間、合計一二一万三八六七円の給与収入を得ていたこと、また、平成四年度実績の賞与は五八万一五〇〇円であることが認められる。そうすると、右六か月分の給与の金額を二倍すると、聖子の一年間の給与は二四二万七七三四円となり、これに前記賞与五八万一五〇〇円を加えると、聖子が一年間に得べかりし年収は三〇〇万九二三四円となる。そして、生活費控除割合を三割、就労可能年数を六七歳までの四四年間、これに対応する新ホフマン係数二二・九二三を用いると、その逸失利益は四八二八万六四六九円となる。

三〇〇万九二三四円×(一-〇・三)×二二・九二三=四八二八万六四六九円(円未満切捨て)

2  原告両名の死亡慰謝料(認容額二〇〇〇万円(各自一〇〇〇万円ずつ))

証拠(甲一、甲一八、原告弘勝)及び弁論の全趣旨によれば、聖子は、本件事故当時、二三歳になる原告らの長女(独身)であり、自宅から勤務先へ通勤し、原告ら及び次女とともに生活を送つていたところ、本件事故により突然長女を失つた原告らの悲しみは甚大であることが認められる。右事実によると、聖子の死亡による原告らの慰謝料は二〇〇〇万円(各自一〇〇〇万円ずつ)とするのが相当である。

3  葬儀費用(認容額三三七万〇八〇四円)

証拠(甲九ないし一三、一五、一六、原告弘勝本人)によれば、原告弘勝は、聖子の葬祭関係費用として、葬儀料八一万四二二九円、火葬場使用料六〇〇〇円、葬儀当日の礼拝に対する謝礼(金光教岡東教会への支払い)一六万円、葬儀当日の弁当代一四万四二〇〇円、聖子のための神壇四一万二〇〇〇円、墓地永代使用料及び管理料六三万四三七五円、石碑・墓石代一二〇万円、右合計三三七万〇八〇四円を支出したことが認められる。そして、本件は、本件事故のため、両親が子の葬儀を執り行うことになつたいわゆる逆相続の場合であるので、右葬祭関係費用のうちの葬儀料のみならず、その他の費用についても、被告らに賠償させるべき本件事故と相当因果関係あるものと認めるのが相当である。従つて、葬儀関係費用は、その金額三三七万〇八〇四円と認める。

4  聖子の傷害慰謝料 二〇万円

前記1の争いがない事実に加え、証拠(甲六、七、一八、原告弘勝本人)及び弁論の全趣旨によれば、聖子は、本件事故により脳幹損傷を負い、平成四年六月二二日の本件事故当日から岡山赤十字病院に入院したこと、右入院時には中等度の意識傷害があり、錯乱状態であつたが、同月二四日からはほぼ脳死状態となつたまま、同年七月六日死亡するに至つたことが認められる。右のような聖子の本件事故から死亡時までの容体、入院期間等に鑑みると、聖子の傷害慰謝料は二〇万円とするのが相当である。

5  聖子の休業損害(認容額ゼロ)

原告は、聖子の休業損害として、一五日分一二万三六六七円を請求するが、証拠(甲八の一、原告本人)によれば、聖子は、本件事故日の平成四年六月二二日から同年七月六日(死亡日)まで休業したものの、勤務先からは、同年六月分の給与として、他の月の給与と比較して満額と推認される二〇万四四〇〇円を、また、同年七月分の給与として、一か月の給与の約四分の三に当たる一五万五三四四円を支給されたことか認められる。そうすると、聖子の休業損害は認められないというべきである。

6  付添看護料(認容額七万五〇〇〇円)

前記4で認定した事実に加え、証拠(原告弘勝本人)によれば、聖子が本件事故により入院し死亡するまでの一五日間の症状は、前記4で認定したとおりであるところ、原告らは、右一五日間毎日、大半は二四時間、聖子のそばに付き添い、看護をなしていたことが認められる。右のような聖子の容体と原告らの付添看護の事実に鑑みると、少なくとも、聖子の母原告通子の付添看護料として、一日五〇〇〇円の一五日分である七万五〇〇〇円は、損害として認められるべきである。

7  相続と遺産分割

請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

そうすると、前記1ないし6によれば、本件事故による損害合計は、原告弘勝につき一三三七万〇八〇四円(前記2と3の合計)、原告通子につき五八五六万一四六九円となる。

四  抗弁(過失相殺)について

1  前記一の争いがない事実に加え、証拠(甲五、一八、一九、甲二〇の一、二、原告弘勝・被告西野各本人(一部))及び弁論の全趣旨を総合して、当裁判所が認定した本件事故の態様は、次のとおりである。即ち、本件事故現場の状況は、別紙図面のとおりであり、岡山市問屋町(北)から平田方面(南)に向かう道幅約四・八メートルの道路(南北道路)と、田中方面(西)から今八丁目方面(東)に向かう道幅約六メートル(二車線、なお、その外両側には幅約一・五メートルの歩道がある)の道路(東西道路)が交差する交差点(本件交差点)である。本件事故現場は、非市街地にあつて、交通量は少なく、南北道路は、制限速度時速三〇キロメートルの速度規制があるが、本件交差点入口には、一時停止規制がないのに対し、東西道路からの本件交差点への入口には、それぞれ道路標識や、道路上の「止まれ」との表示と停止線による一時停止の規制がある。南北道路から本件交差点にかけては、向かつて左側(本件交差点の北東角部分)は、当時ブロツク塀でほとんど隙間なく囲まれていたため、見通しが悪かつたものの、向かつて右側は見通しが良く(ちなみに、別紙図面の〈P〉1の地点から右方への見通しは約三〇メートル、〈P〉2の地点から右方への見通しは約五〇メートルである)、一方、東西道路から左方の見通しもよい。聖子及び被告西野とも、本件現場を通勤や仕事等でしばしば通つており、交通規制、現場の見通し等については、熟知していた。

被告西野は、南北道路を南に向けて、被告西野車(普通貨物自動車)を時速三〇キロメートル程度の速度で運転し、本件交差点に差し掛かつた。被告西野は、まず、別紙図面〈2〉付近で一旦右方を見た後、見通しの悪い左方の確認をなすべく、〈3〉付近でエンジンブレーキを掛けて減速し、〈5〉付近に至つたときに左方の安全を確認した後、本件交差点を通過するため再び加速し、時速二五ないし三〇キロメートルで走行し始めるとともに、右方を見たところ、本件交差点西側入口の停止線〈ア〉付近から本件交差点に向けて発進して来る聖子車を発見した。そこで、被告西野は、危険を感じてブレーキを掛け、ハンドルを左に切つたが間に合わず、自車の右前部を聖子車の左側面に衝突させ、聖子車を少なくとも四・三メートル引きずつた後、聖子車をその場に、また、聖子を左前方に投げ出す形で転倒させた。

他方、聖子は、東西道路沿いに本件交差点の西約四〇メートル付近にある自宅の前から聖子車(原動機付自転車)に乗つて、東西道路を東に向かつて走行し、本件交差点入口の停止線の手前で一旦停止した。しかし、聖子は、前記のように一旦減速した被告西野車を見て、自己の方が早く本件交差点を通過できるものと軽信したか、或は、左方の安全確認が不十分で被告西野車に気付かない状態のままかで、本件交差点から通常の速度(時速二五ないし三〇キロメートル程度の速度)で発進した。そして、前記のように、〈イ〉の地点に至つて、聖子車の左側面が被告西野車の右前部に衝突した。

2  なお、被告らは、聖子が本件交差点入口の停止線で一時停止せずに、漫然と走行した旨主張し、証拠(甲一八のうちの被告西野の検察官に対する供述調書、被告西野本人)中には、これに沿い、或は沿うかのような供述部分が存在する。しかし、右証拠によれば、被告西野は、結局のところ、「私が発見したときは、(聖子車が)停止線から勢いよく出て来た感じに見えた。」というに過ぎず、被告西野も、聖子が一時停止したか否かを逐一見ていた訳ではないことが認められ、他に、聖子が一時停止を怠つたことを認めるに足りる証拠も存しない。かえつて、証拠(甲一九、原告弘勝本人)によつて認められる、本件現場の位置関係、聖子の日頃の運転態度に鑑みると、聖子は停止線手前で一旦は停止したものと推認するのが相当である。

また、本件事故直前の被告西野車の速度は、現場に残された同車によるスリツプ痕の長さ(四・五メートルと三・七メートル)や、同車及び聖子車の損傷状況(前者につき、右前部フロントガラス割損、右前部ボデイ凹損・擦過損、後者につき、左側面ボデイ破損、バツクミラー破損等がみられるが、いずれも比較的軽微)等に照らすと、時速二五ないし三〇キロメートル程度、聖子車の速度も、右両車の損傷状況、被告西野が聖子車を発見したときから本件事故現場までの距離関係(被告西野車が〈5〉を過ぎたあたりで、〈ア〉付近から出て来る聖子車を発見したが、右各地点から衝突地点までの距離がほぼ同じであること)等に鑑みると、被告西野車と同程度の二五ないし三〇キロメートルであつたものと認めるのが相当である。

3  被告西野及び聖子の過失

被告西野には、本件交差点に進入するにあたり、東西道路の左右双方の安全確認をし、東西道路から交差点に進入して来る車両の動静に注意して走行すべき注意義務があるのに、ほとんど、見通しの悪い前方左側の安全確認のみ行い、本件交差点手前に至る前に、見通しのよい前方右側の安全確認を怠つたことにより、聖子車の発見が衝突直前まで遅れた点に過失があることは明らかである。

他方、聖子も一時停止の上、南北道路の安全を確認し、進行車両があればその通過を待つて(道路交通法四三条参照)交差点に進入すべき注意義務があるところ、被告西野車の動静に対する注意が不十分で、先に自己が通過できるものと軽信し、被告西野の通過を待たなかつた点(聖子が一旦減速した被告西野車を見ていた場合)、或は、左方の安全確認が不十分であつた点(聖子が被告西野車に気付かないままの状態で停止線から発進していた場合)に過失が認められる。

4  過失割合

一般的には、本件交差点を巡る交通規制に鑑みると、東西道路を通過する車両(聖子車)には、南北道路を通過する車両(被告西野車)に比し、より高度の安全確認義務が課せられているものというべきであるが、前記1及び3で認定した被告西野と聖子の各過失の態様、本件事故の状況(本件事故当時の両車の速度(同程度)も含む)に加え、車種の相違を考慮すると、本件事故発生についての過失割合は被告西野が五割五分、聖子が四割五分と認めるのが相当である。

そこで、前記三7の損害合計につき、過失相殺により四割五分の減額を行うと、原告弘勝の損害額は七三五万三九四二円、原告通子の損害額は三二二〇万八八〇七円(いずれも円未満切捨て)となる。五 損害の填補・弁護士費用

1  原告通子が自賠責保険から三〇〇〇万円の損害の填補を受けていることは、原告らが自認するところであるから、これを控除すると、原告通子が請求できる損害額は二二〇万八八〇七円となる。

2  本件事案の内容、審理経過、認容損害額(原告ら両名併せて九五六万二七四九円)等に鑑みると、被告らに賠償させるべき本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は九〇万円とするのが相当である(原告らの請求のし方に合わせ、原告通子の請求できる損害額に加えることとする)。

六  むすび

以上の次第で、原告らの請求は、被告ら各自に対し、原告弘勝につき七三五万三九四二円、原告通子につき三一〇万八八〇七円(弁護士費用を含む)及び右各金員に対する本件事故の日である平成五年六月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 德岡由美子)

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